年明け
――年明け。
年末年始といっても、ヤケアトの地上も地下も、人々が彷徨っていることに違いはない。混沌とした時代はまだ続く、『戦後の復興』まで何年かかるのだろう? ……それを知るのは当人達が時代の先に進むしかない。GHQ占領下の世相は変わらず、アメリカ軍人が高級な館で今夜も集めた楽団を楽しみながら酒を飲む。そのおこぼれに預かるようにニコヤカな笑顔を先まで敵だと言っていた相手に送る、おべっかではなかった、それはよりよく生きるための術であった。この時代の生きる術とは、順応の速さだ。それについていけぬ者は、取り残されて飢えていくのみ。
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「年が過ぎたでありますね」
深夜、年越しそば――アナグラの芋を生地に練っているそば、もどきである――をもそもそと食べていたハラナキが時刻を見てそうぼやいた。
「あ? あ、本当だ」
匙・当適も眼鏡をかけなおしてそれを確認する。――去年は黒武者・徹の捕縛ができただけ僥倖であった。続く作戦も考えている、今年一月、その準備となるだろう。頭を悩ませている問題は数多くある。地上でただでさえ占領政策に縛られているというのに、その上でアナグラの問題だ。なんとか、対策部は対策部の中で国家転覆という大問題を解決するために動いている、が……。
「上はなんて言ってきているでありますか」
「次に近いうち、二人は捕縛しないとあっちの国のお上さんにこってりと絞られることになりそうだよ」
まったく、ウチの国の問題なんだから、ウチで解決させて欲しいものだけれども――そう続けるが、実際のところの本音は、うかつにアナグラに大量の兵卒を投入されるということを危惧しての言葉だった。匙は匙なりに、アナグラの文化を愛している。だからこそ、それを崩そうとする者は許せないし、打倒しようと考えている。
「……さて、間はあいたところだし、皆も英気は養っていることだろう! ……近いうち、作戦を練ろう」
「そうでありますな」
「皆はひとりじゃない、皆でなんとかしていこう」
それは匙殿もそうでありますよ――敬礼して、ハラナキはそうこたえた。