思索する死にぞこない
――子供と、会った。
おそらくは、いや、ほとんどがフクロウが噛んでいるのは分かる。わざわざ子供を寄越してきたのか、それとも子供から望んできたのか。
どちらともろくでもないに決まっている――『こんなもの』と会って話して、何が面白いものか。どうなるというのだ。
目を閉じ思索する。
――死ぬために悪いこと? 戦いの中で死にたい? ……変な話なのだ……平和な今で、わざわざそんなこと……?
……そうだ、今は平和だ。あの子供の霊を思い出す。今後あのようなものが、おそらくはニホンという国でできることはないのだろう。……自分が加担している国家転覆計画が未遂となれば、の話であるが。アナグラの鼠の一匹であろう子供がこちらにやってきて、何か聞きたそうにしていたのを適当に追っ払ったのも覚えている。
――フクロウの狙いは、俺。それは分かっている。
ただ、今思いを巡らせているのは、例えばかれらが――幼いかれらがもし『敵』として立ちはだかった時、おのれは満足に戦えるのだろうか、と。すでにこう考えている時点で敗北なのかもしれない、相手は純然たる感情でおのれを知ろうとしていた、その感情を否定しきれず、そして上手く躱せないまま菓子をやってごまかすのがせいぜい。こんなもので国家転覆など務まろうはずもなく、つくづく半端な精神である、こんなものなど焼いて捨ててしまえばいい。灰になって消えてしまえばいい。だが、子供が犠牲となる未来に、おのれが身を置くことも許せない。
黒武者・徹は元から異常な人物ではない。れっきとした、真っ当な人間が、戦火で心を壊された、ただそれだけだというのに、気づくことも難しいまま。
●
「『黒武者狩り』、どうしたものかな」
なんて言い方は悪すぎるかな――匙・当適は誰ともなくぼやく。
自身も直接戦場に立ったわけではないものの、異能力者の特殊部隊出身という点では黒武者については、思うところがある。
……どうしたものか。
子供に甘く、寡黙で、愚直な男。
匙が出した結論はそのような人格であり、法治国家であるニホンでは殺害ではなく生きて逮捕しなければならない相手である。
「そのために利用できるものなら……」
なんでも使う、といい切れるほど自分が非情であればどれほど楽だったろう。
「まーまーなーらーなーいーねー!」
とはいえ、黒武者の出没地域は絞りつつある。……いや、これは……。
「わざと絞られようとしているね、キミ」
あわれみ、といっていい目線が書類に向けられる。
『その時』が来たら、彼が行うのは自爆的行動か、それとも。