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​美しい死

 ――戦いの中で、死にたかった。
 この願いは果たして、散っていった仲間達にとってはおこがましいものだろうか――それでも、一緒に散りたかったのだ。一緒に死にたかったのだ――敗ける戦いであるのならば、尚のこと、生きていても仕方ないじゃないか――戦って敗けたあとに何が残っているというのだろう。薄暗い死の願望だけが残っていて、その先は見えない。そんな時に声をかけられた、『第弐帝国国粋革新会』とやら。その目的は信じがたく、敗けた現実を前線で見ていたものだから、国家転覆、そんなものができるとはとうてい思っていないけれども、おのれは勘解由小路・武の、その手を取った。
 どうせ命を使うのならば、こんな無謀な戦いの中で散らせたい。破滅的な願望である、それは理解している。



 アナグラのスラムの中を歩く。ここが一番居心地が良い。国粋革新会の本部はどうにも座りが悪いし、人が多い歓楽街に行く気も起きない。戦場のストレスですっかりと白くなった髪に、隻腕、未だ外せぬ包帯と、目立つ姿をジロジロと見られたくない。​それでもスラムでもそのすがたは目立つ、黒武者・徹はするりと指を空間をなで上げるようにすると、周辺の注目は不自然なくらいに、自然に消えた。​黒武者はこのような異能力の持ち主である。だからそういう部隊に抜擢された。戦場での成果は――悪くはなかった。しかし、大局を動かすほどのものではなく、大国に敗れ去る運命となる。スラムの隅、乱雑に置かれた新聞の山を見た。火種代わりに使われる古い新聞、いつだかの戦局を伝えるもの。玉砕、まるでそれを褒め称えるように、事実それはその時は称えられるべきものだったのだ。今は批判の種、美しい死はどこにあるのだろう。
「……は」
 思わず空虚な笑い声が出た。今求めて止まない死も周りから見れば醜い死なのかもしれない、惰性で生きている、惰性で存在している、であるのならば最期くらいはおのれの考える華々しい死でありたい。愚かと言われようと、阿呆と言われようと、それだけは譲れぬ。
 ――しかし、それを簡単に許してくれる連中ではなかろう。
 白い羽ばたきを見せる梟の姿が見えた気がした。こんな地下にそんなものが居るはずがあるまい。

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