虎、獰猛につき
「――あっはっはっ!」
多くの人がやはり立ちはだかる。奮戦するフクロウ達、しかし――。
「これはあきまへんなぁ! ちぃと危ない思っとったけど……!」
人だかりがフクロウ達の方へ迫ってくる! ――そうして、混乱のさなか、虎屋・獅鉛は身を翻し、戦場を去っていった。
あと少し、あと少しだった。そんな中、人々の正気が戻り始める。どうやら、虎屋の暗示は距離によって減衰するのか、その集団は自分達が何をしていたのかわからない風でいる。話を聞いてみれば、個性はさまざまで、寄せ集めの集団以上の情報は得られなかった。
「逃がしたでありますか。……しかし……」
――虎屋はあれで、何かを焦った風で居た。ハラナキは確かにその感覚を覚えている。
「……大丈夫、また捕まえる機会はあるであります。今回の件でナリはある程度潜めるかと。それよりも、民間人や怪我人の様子を!」
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「いんやー、今回は痛い目見るとこやったわ。黒武者のように臭い飯は食いたくないんでねぇ」
「……」
虎屋の軽口を睨みつけるようにして見ているのは、先に虎屋を見送った儀間鷲・誉麗だった。
「危なかったんじゃないの」
「ギリギリでしたなぁ~」
「能天気な……」
イラついた風の儀間鷲にあっはっはと笑ってみせる虎屋。
「次、あったら、アタイも一緒に行くよ。……隠れてる方がいいと思うけどね! フクロウの連中、どんどんアタイらを追い詰めてくるね」
「向こうもこっちを早う取り締まりたくて仕方ないんやろ。しかし――」
虎屋は目を細める。
「……この勢いは本当にあきまへんな。『真打ち』の人らまで迫られたら『カイチョー』も困るやろ」
「――それは同意」
ため息がひとつ、ふたつ。
人さらいにもショバ代取りにも奇怪絡繰作りにもすべて意味がある。どれもつながっていないように見えて、必要なのは『金と兵器と人材』。
「それにしても」
煙草を虎屋は一服した。
「……また戦争でも始める気なのかねぇ? 『カイチョー』は」
虎、獰猛につき。しかして、慎重である。