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黒武者狩り

「――では作戦の開示を行う!」
 いつになく真剣な表情で、匙・当適は背筋を伸ばし、一同へと声をかけた。
「黒武者・徹の『逮捕』を目指す! これにあたり、奇怪党の奇怪絡繰であらかじめ『蒸気包囲網』を敷いた!」
 ――『蒸気包囲網』とは、今回奇怪党と対策部が協力して開発したものである。
「文字通り、蒸気で出来た包囲網だ。非常に高温で本来通ることは叶わない。でも、特別な術式を施していてね、これはフクロウの証である『腕章』を持っていれば、蒸気の中を安全に通ることができる。逆に、囲われている者は理論上手も足も出ないということだ。ただ、狭い範囲を包囲することはできないから、ある程度の広さの中は駆け回ってもらう」
 腕章については腕につけなくても構わない、ポケットに仕舞うのもなんでも、とにかく持っていれば良い。
「今回は黒武者の目撃証言から絞り、本人の特定から包囲網を敷く流れとなった。あとは本人の逮捕だが、さすがに蒸気にぶつかって自爆する気はないらしい。……報告にあった彼の言動通り、戦いの中で死にたいのだろう。けれども――」
 ニホンは法治国家。ここは何としてでも生還と逮捕を。
 匙はそう念を押した。



「……」
 蒸気の包囲網。相手もそれなりに考えるものだ。自分から誘い込んだようなおのれはともかく、他の面々はこれに囲まれてしまってはいくらか弱体化するだろう。それとも今回のケースで身の守りをさらに固めるだろうか?
 黒武者は目を閉じる。これがきっとおのれのさいごの戦いだと思われる。
 ――おのれの最期の華の道となるか、無様を見せるか。
 どこかでどちらでも構わないという自分が居た、夏祭りで声をかけてきた、大変な変わり者のことを思い出す。
「――馬鹿な奴らばかりだ。あいつらも……俺も」
 黒武者はぼやくと、蒸気の先を睨みつけた。
 ここから先の戦いを想って。

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