膠着、のちに
「……随分と膠着状態が続いたねぇ」
ぽつり、と匙・当適はぼやく。初夏の時期に虎屋・獅鉛を逃したことは大きく痛手で、相手も相応に警戒しているのか、潜伏しているようだった。
「とはいえ」
そろそろ、この状態を打破せねばね、と、ハラナキに声をかける。
「はっ! ……相手が出て来ざるを得ない状況にするのが、一番なのでありますが――……」
「そうだねえ……それが一番の難題なんだけれども、相手もそれなりに、苦境にあるらしい」
「と、言うと……?」
「潜伏しているとショバ代取りとか人攫いができないだろう? つまり金も人も集められない。そろそろ強引な手段に出るんじゃないか、という見立てがあってね」
「――強引な手段、でありますか」
そ、と匙はそう言うと、手を握りしめた。
「どうにかして虎屋と、もう一人は行動へ出る必要に迫られる。――そこを、叩く」
●
虎屋は軒・ミヂカに対して派手にため息をついた。
「ほーんまに、やってられませんわぁ」
「お互いにねー。誉麗ちゃんはこもって作業できるから元気そうだったけれども」
くぁ、とあくびをする軒は剣呑に目を光らせる。
「で、どうする? このままだとおじさん達食いっぱぐれよ~?」
「そろそろ『こっちから』奪いに出る他ありませんなぁ……」
よいせと虎屋は立ち上がる。
●
「繁華街?」
「そうであります。最近人の流れが少しずつおかしくなっていって……なんていうか、寂れてきたというか?」
「そんな急に起きることがあるかよ。……上へ出た可能性は?」
「闇市で残飯シチュー食べるよりかはアナグラで芋食べていた方がマシであります! ……まあ、上に憧れる者は居ますけれども――……あ、そうそう!」
ハラナキは区切・終の言葉にハキハキと返答をしつつ、真剣な眼差しを向けた。
「紹介したい人が居るのであります。このお二人」
顔に紙をつけた珍妙な学生服の男女を一瞥して、終は一言。
「憑キ物……か」
「はい、そうでございます」
「ハラナキ様の仰る通り、アナグラは今異変が進みつつあります。……停滞を超える先は改革か、革命か……」
ヘンな革命は勘弁してくださいであります、ハラナキはげんなりとした顔で、紙の下の端正な顔を見た。
「地下で暴れられては困るのです」
「私達の棲む場所は日陰なのですから」
「アナグラがなくなっては困る」
彼らは口々にそう言うと、一礼した。
「どうぞ――今一度。アナグラの暗がりを守るために、お力をお貸しくださいませ」


