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​全部、嘘

 その工場では、人形を作っていた。絡繰人形だ、あけてびっくり玉手箱! いろんな芸ができる、そりゃあもうすごいもの。
 戦争への高揚が近づくにつれて、工場は人形から兵器を作るところへ。繊細な人形ではなく、大きな大砲から細かい銃まで作るようになった。
 その変遷を見届けていたのは、過日の儀間鷲・誉麗。
 昔の可愛い人形は、なくなっちゃった。でも、今は格好いい機械を作っている。これがきっとお国の役に立つのね、そう聞くと父はそうだとも言う。この国は世界で一番でかい軍艦を作っているし、戦闘機の技術だって世界一だ。だからこの戦争に勝って、もっといろんなものを作れるようになる。戦争が終わったら、また一緒に絡繰人形を作ろう……。



 全部、嘘じゃないか。
 空襲で燃えて、燃えて、そうして鉄筋がむき出しになっている工場を見る。
 戦闘機の世界一のパイロット達は海に散って、世界一の軍艦も沈められた。絡繰人形を作っていた人たちも、みんな焼かれて死んだ。父も、母も!
「……全部……全部、嘘じゃないか!」



 アナグラの存在を知ったのは、敗戦の色が濃くなった頃合い、失意のままに『奇怪党』なるものがあると聞いたからだった。地下の独自発展を遂げた機械類は興味を引いたが、儀間鷲の泥のような目はそれにすらこれっぽっちも興味が向かない。所属していても元気がなく、同僚に気を使われる始末。……何かが足りない、足りないのだ。ある日、奇怪絡繰作りを失敗してしまったと言っていた同僚の奇怪絡繰を処分することになった。おのれの作った奇怪絡繰でスクラップにしていく。
 ……楽しい。楽しい! 楽しい――!
 地面をえぐるほどにしてから、同僚に止められた。それから、気付いたのだ。おのれの中の、破壊衝動に。
 奇怪党からは睨まれるようになり、この衝動をどうしようかと考えているさなかに、差し伸べられる手。――ああ、ここならもっと壊していいのかな? ここなら、もっと自由でいられる? コンプレックスからの衝動、理解している。ただの八つ当たりだ、こんなもの。それでも――だって、気持ちがいいから仕方ないじゃないか。
 ――全部、全部が……嘘だったんだから! 癇癪くらい起こしたっていいじゃないか!

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